「翡翠と虹とサンタさん」
 
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「サンタさん?」
「そ、サンタクロース、サンタさん。なのはたちの世界の人でね。
 クリスマスの夜にトナカイの引いたソリに乗って、子供たちにプレゼントを配ってくれるおヒゲのおじいさんなんだ」
「へぇーー」

 無限書庫。
 いつものようになのはとの待ち合わせのためにやってきたヴィヴィオ。
 ユーノに読んで欲しくて、探してきた本は地球の童話だった。

 読んでいた本から視線を上げ、ヴィヴィオの顔を見る。
 多感な年頃、ヴィヴィオは何にでも興味を示す。やはりというか、何というか。
 その輝く瞳に思わずユーノの顔から笑みがこぼれた。
「ね、ね、ゆーのくん。ヴィヴィオにも、サンタさんプレゼントもってきてくれるかな」
「うーん、どうだろうねぇ、ヴィヴィオが良い子にしてたらひょっとしたら、持ってきてくれるかもね?」
「じゃあ、ヴィヴィオがんばる!!」
 フンと両手を握り込んで、ポーズを取るヴィヴィオに再び笑みがこぼれる。非常に微笑ましい光景なんだけど、何をどう頑張るつもりなんだろう。

 そう言えば、そろそろクリスマスだっけ。

 ヴィヴィオに言われ、ふと、思い出した。端末を開き日付を確認すれば、クリスマスまでは後数日といったところ。
 今年のクリスマスはどうするのかな?
「ユーノ君、どうしたの?」
 そんなことを考えていたら、後ろから声が掛かった。
「んー? ヴィヴィオが持ってきた本がサンタさんのお話でさ。
クリスマスも近いし、今年はみんなどうするのかな、って、思ってたところ」
 振り返りながら、やって来たなのはに返事を返す。なるほどと腕を組みながら、なのはが苦笑する。
「今年はみんな、それぞれ予定入っちゃってて。みんな、それぞれにやるんだって。だから、パーティーとかはやる予定はないかなぁ」
「あらら、そうなんだ」
「お休みはもらってるから、うちでささやかにやるつもりなんだけど……ユーノ君、予定は?」
「残念ながら……イヴは夜遅くまでお仕事。クリスマスも同じ」
「そっかぁ……」
 ユーノの言葉に、なのはがガックリと肩を落とす。そんな姿に苦笑しながら、ユーノは読んでいた本を軽く音を立てて閉じる。
「ヴィヴィオ、この続きはまた今度ね」
「あい!」
 ユーノから手渡された本を片手に、ヴィヴィオはなのはに近付き、なのはの袖を引っ張った。
「ね、ね、なのはママ!」
「どうしたの、ヴィヴィオ?」
「ヴィヴィオ、いいこにしてたら、サンタさんきてくれるかな?」
 軽い落胆から立ち直ったなのはが聞くと、ユーノに見せた時と同じ輝く瞳で本を指しながら同じ事をヴィヴィオは訊いた。
 どれどれ、とヴィヴィオから本を受け取る。パラパラとページを捲ってみて、なのはは一つ頷いた。
「そうだね、ヴィヴィオが良い子にしてたら、きっとサンタさんもヴィヴィオにプレゼント持ってきてくれるよ?」
「ほんと?」
「もちろん♪ あ、そうだ!」
 娘の頭を撫で、なのはは何かを思いついたように人差し指を立てる。その顔は何かを思いついたいたずらっ子のような笑みだ。
「帰ったら、サンタさんにお願いのお手紙、メールで書いてみよっか?」
「サンタさんに?」
「そう、サンタさんに。ママの世界はね。サンタさんにお手紙書いたら、サンタさんお返事くれるんだよ?」
「ほんとに!? じゃあ、ヴィヴィオおてがみかく!!」
 ヴィヴィオがはしゃぎながら、抱きついてくるのを受け止め、ユーノに軽く目配せする。
 はて、と一瞬、首をひねるユーノだったが、すぐになのはの意図は理解できた。

 面白そうだ、とユーノもまた、いたずらを思いついた顔で笑いながら、なのはに無言で頷いた。
 ユーノの頷きに満足そうに微笑んで、なのはとヴィヴィオは無限書庫を後にするのだった。

◆◇◆

 さんたさんへ。
 はじめまして、たかまちヴィヴィオです。
 ――――――。

「お手紙書けた? ヴィヴィオ?」
「かけたよ! なのはママ」
「どれどれ?」
 ユーノと書庫で別れ、二人で帰宅した後、楽しそうにサンタへのメールを書くヴィヴィオ。後ろから声を掛け、書き終えたメールを覗き込んで、なのはは思わず吹き出した。
 何しろぬいぐるみに始まり、欲しい物がこれでもか、と目一杯書いてあったのだ。
「ヴィヴィオ〜、あんまり欲張っちゃ、サンタさん困っちゃうよ?」
「えー、だめなのー?」
「だーめ! ヴィヴィオがプレゼント独り占めしちゃったら、サンタさん、他の子にあげるプレゼントが無くなって、困っちゃうよ? わがまま言う子のとこにサンタさん来てくれるかな〜?」
 多少、意地悪くなのはが言うと、困ったような顔をして、ヴィヴィオは画面とにらめっこを始めた。しばらく考えて、大きなぬいぐるみが欲しいという希望とひとつのお願いだけが残された。
「そのお願いでいいの?」
「あい」
 ぬいぐるみはともかく、書かれていたお願いを見てなのはから苦笑が漏れる。
『サンタさん』はこれを見たら、どう思うだろう。
 そんなことを思いながら、なのはは送信ボタンを押した。

 ――――――さんたさんへ。
 ヴィヴィオにはおともだちにうさぎさんのぬいぐるみがいます。
 だけど、ヴィヴィオががっこうにいってるあいだ、いつもひとりぼっちです。
 だからヴィヴィオがいないあいだ、うさぎさんをまもってくれる、おおきなおともだちがほしいです。
 それと、きょう、ゆーのくんはクリスマスのひ、おしごとだっていってました。
 それをきいたら、なのはママはとってもさみしそうな、おかおしてました。
 ヴィヴィオ、クリスマスになのはママとゆーのくんといっしょにいたいです。
 さんたさん、ヴィヴィオのおねがいかなえてもらえますか?

***

 高町ヴィヴィオちゃんへ。
 お手紙ありがとう。
 プレゼントのお願い、確かに受け取ったよ。
 地球からだと少し遅くなるかもしれないけど、きっと届けに行くからね。
 サンタクロースのおじさんより。

 しばらくして返ってきた返事。返事を見て、ヴィヴィオがはしゃぐ。
 なのははそんな娘の姿に微笑ましくも苦笑するのだった。

◆◇◆

 そして、クリスマスイヴ。

 サンタさんは子供が眠ってるうちにプレゼントを靴下の中に入れてくれるんだよ。

 なのはがそう言ったので、ヴィヴィオはいつもより早くベッドに入った。

 結局、ユーノは仕事で来てはくれなかった。
 残念だったけど、イヴのパーティはママといっしょだし、ヴィヴィオは楽しかった。

 しばらく経って、ふと、部屋の中に響く物音にヴィヴィオは目を覚ました。眠たい目を擦り、むくりと身体を起こすと、ベッドの反対側に背を向けている人物が居た。
「だーれ、なのはママ……?」
 背に声を掛けられ、人物が一瞬ビクッと震える。
 誰だろう?と眠い頭でヴィヴィオがぼんやり考えると、電気の消えた部屋に月明かりが差し込み人物の姿を照らし出した。

 そこに照らし出された姿はユーノが読んでくれたお話の通り。真っ赤な服に身を包んだおヒゲの人。

「………さんたさん?」
 振り向きながら、サンタクロースが口の前に指をあてる。
 あっと、ヴィヴィオは慌てて、口に手をあて次に出掛けていた言葉を噤む。

 ヴィヴィオの行動に軽く頷いて、ヴィヴィオを寝かしつけると、サンタは袋の中から大きなウサギのぬいぐるみを取り出し、ヴィヴィオのお気に入りのウサギさんの隣に置く。

 ヴィヴィオはその間、ずっとサンタさんをジッと見つめていた。視線に気が付いたのか、サンタがヴィヴィオを見下ろす。
 顔は陰に隠れて見えないけれど。確かにおヒゲがあって、赤い服を着てて。とっても優しそうで。
 そんなことを考えていたら、ヴィヴィオは頭を撫でられた。

 なんででだろう。
 てぶくろをしているけど、ヴィヴィオ、このてをしってるきがする。
 はじめてあったひとのはずなのに。

 考えようとしても、撫でてもらえるのが気持ちよくって、段々と睡魔に負けてくる。
 サンタさんともっとお話ししたいのに。そう考えても眠気に勝てない。

 やがて、ヴィヴィオは再び眠りへと落ちていった。

「………おやすみ、ヴィヴィオ」
 ヴィヴィオが眠りにつくまで優しく頭を撫で、規則正しい寝息が聞こえ始めたのを確認して、ひとこと呟くとサンタはゆっくりと立ち上がろうとした。
 ふと服が引っ張られるのを感じて、視線を下げてみるといつの間にか、ヴィヴィオがサンタの服の裾を掴んでいた。
 苦笑しながら、そっと掴んでいる手を外し、布団を掛け直してやって、音を立てないように、今度こそゆっくりとサンタはヴィヴィオの部屋を後にした。
「お疲れ様、サンタさん♪」
「途中でヴィヴィオが目を覚ましちゃったから、バレやしないかヒヤヒヤしたよ」
 部屋から出て、音を立てないように戸を閉めて振り返ったところに、待ち受けていたかのようになのはが壁に寄りかかって立っていた。
 サンタの格好がおかしいのか、クスクスと笑うなのはに苦笑しながら、サンタ、ユーノは帽子と付けヒゲを外す。
「そんなにおかしい?」
「いや、何もそんなに凝らなくたってよかったのに」

 そう、サンタの正体は言うまでもなくユーノだった。サンタさんに欲しいプレゼントをメールで送るという方法でなのははひと芝居打ち、それを理解したユーノが乗ったのである。
 プレゼントそのものはなのはとユーノの共同だが、サンタの格好はユーノの独断。
 さすがにサンタの格好でユーノが、やって来たときは玄関で堪えきれずに笑ってしまったなのはだった。
「子供の夢を壊しちゃ駄目でしょ?」
「……ふふ、ありがと、ユーノ君。でも、その格好で来るのはさすがにびっくりしたよ?」
「結構、あったかくて良いんだけどね、この格好」
 微妙にずれた回答をするユーノになのはは苦笑して、言葉を続けた。
「ところで、ユーノ君。私へのプレゼントは?」
「そうだね……。明日、一日なのはとヴィヴィオに付き合うってのは?」
「へっ?」
 ユーノの思い掛けない言葉になのはは目を剥いた。明日は仕事だと言ってたはずなのに。
「あのメール、ヴィヴィオが書いたんでしょ?」
「あ、う、うん」
「今日の僕はサンタさんなんだし、子供のお願いは聞いてあげないと、ね?」
 聞けば、メールを見た後で慌てて休みを申請し、何とか明日だけはもぎ取ってきたらしい。嬉しかったけど、どこまでもヴィヴィオに甘いユーノになのははプゥッとわざとらしく頬をふくらます。

「私がお願いしたって、聞いてくれないときがあるのに。ヴィヴィオのお願いばっかりずるいんだー」
「あ、いや、べ、別にそういうわけじゃ……」
「ふーんだ。そうやって、ヴィヴィオと付き合っちゃえばいいんだ」
「あ、いや、ちょ、なのは」
 プイッと顔を背けてしまったなのはに、ユーノはオロオロし出す。
 しばらく横目でその様子を眺めていたなのはだったが、手振り身振りを加えて、色々と弁解するユーノがおかしくてたまらない。やがて、笑いを堪えきれなくなってきた。
「なのは?」
「ユーノ君!」
「はいい!!」
 ビシッと言い放ち、ユーノが思わず直立したところで、なのははそのままユーノの胸に飛び込んで抱きついてやった。
 慌てて、ユーノがなのはの身体を支える。
「あ、えと、なのは?」
「しばらくこうしてくれてたら、許してあげる♪ ふふ、それにしても、ホントにこのサンタさんの服、あったかいねー」
 満足そうに胸に顔を埋めるなのはにと苦笑しながら、なのはが寒くないようにギュッと抱き返す。
「んー、あったかーい」
「ご満足頂けました? お姫様?」
「まだまだ、駄目ー。今日は私もヴィヴィオもずっと寂しかったんだからね?」
「だったら、ヴィヴィオもしてあげなきゃ不公平じゃない?」
「ヴィヴィオは明日!」
「それはいいけど、そろそろ帰らないと……」
「なら、泊まっていってよ、明日は一日付き合ってくれるんでしょ?」

 ヴィヴィオからのメールを思い出す。やはり、寂しい思いをさせていたらしい。いつになく子供のように甘えてくるなのはに、ユーノはやれやれと苦笑する。
 だが、今日の自分はサンタクロースなのだ。子供の願いを叶えるのが仕事だ。そう考えて、なのはが満足するまでそのまま抱きかえしていたユーノだった。

翌朝。

プレゼントのぬいぐるみを抱きかかえて、部屋から飛び出てきたヴィヴィオ。
居間に居たユーノを見付けて、サンタさんがもう一つのお願いも叶えてくれたことを知って大はしゃぎでユーノに抱きついたのは言うまでもない。





−−−−
あとがき。


サンタさんへの手紙というものは実際にありまして。
私も子供の頃、頂いたことがあります。
今回はなのはがひと芝居打ったわけですが、この芝居。


実は私が子供の頃、親からやられた手だったりします。
当時はFAXでサンタさんから返事が来たと大はしゃぎしていましたよ(^^;)


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