「翡翠と炬燵とコタツムリ」
 
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「んー、やっぱり、こういう日はコタツだねー」

フェイトがコタツの中でミカンを摘みながら、一人呟く。
ある冬の寒い日。窓の外には雪がちらついているのが見える。
珍しく休みが合ったので、なのはとユーノと三人で高町家に集まることになった。

だが、今この場にいるのは二人。
夕方にさしかかった頃、桃子が夕食を食べて帰りなさいと誘ってくれたので、お呼ばれする事になり、なのはは桃子と一緒に夕飯の買い物に出掛けてしまったのだ。
もう一人の人物、ユーノはというと……。

コタツに入ったまま、フェイトの隣で寝ていた。
買い物に出る時、そんな彼を見て、なのはは笑いながら言っていた。
まるでコタツムリだね、と。

カタツムリとコタツを掛けたのだろうけど、言い得てなるほどと思った。
コタツの布団から少しだけ身体を出している様は確かにカタツムリのようだから。

クスクス笑って、幸せそうに眠っているユーノをジッと眺める。
このまま寝かせておいても良いのだけれど、あまりコタツの中で寝ていたら、風邪を引いてしまうかもしれない。

「ユーノー、いつまで寝てるのー?」

試しに呼んでみるが、やはり、ユーノは起きようとしなかった。
大げさに溜息を吐いて、つついてやろうかと思うが止めた。
前日も忙しかったらしく、休みは取れたものの、ユーノはロクに休めていなかったらしい。
日頃なら二人の前で疲れた顔など見せないユーノだが、コタツの暖の前にはユーノの精神力を持ってしても打ち勝てなかったようだ。

げに恐ろしきはコタツの魔力か。

来て早々に眠ってしまったユーノを見て、なのはと顔を見合わせて悪いことしたかなぁ、と互いに苦笑した。
二人で通信を繋いだ時も本人は隠していたつもりだろうが、ユーノの声は明らかに疲れていた。
無理して呼ぶべきではないと思ったが、ユーノの方が二つ返事でやって来てしまったのだ。
そういう友だちを大事にするところは彼の美点というべきか。欠点と言うべきか。

まぁ、それはそれとして。

「……暇」

そう、暇なのだ。
なのはは買い物に行ってしまったし、ユーノは寝ているし。
せめてユーノが起きてくれれば、時間は有意義に潰せるというのに。

二人はユーノから、よく発掘の話などを聞いたりしている。
本人に言わせれば、退屈じゃないかと言うのだが、そんなことはない。
むしろ子供のように目を輝かせながら、あれこれ話すユーノは見ていて飽きないし、執務官として、色々な文明の話などは聞いておいて損はない。

だが、それも起きていればの話。
語ってくれる本人は今は夢の中。

テレビを見ていても特にこれと言って面白い番組もなく。

「買い物について行けば、良かったかなぁ」

本当はフェイトもついて行こうとしたのだが、ユーノを一人にするわけにもいかず、なのはに待っているように言い渡された。
なら、代わりに行こうと言ってみても、やんわりと断られてしまった。

結果、手持ちぶさたでボーっとしているわけだ。

軽く嘆息するけど、やることはなくて、だけどコタツは暖かくて。
ぬくぬくと暖を取りながら、隣で眠っている彼をボーっと眺めていたら、自分まで眠くなってきた。

「んー」

いけない、いけないと、と背筋を伸ばし、眠気を飛ばそうとしてみるが駄目だ。やはり、眠たい。
コタツから出て、一旦外へでも出てくれば、眠気も飛ぶだろうが、正直、出たくない。
このコタツという敵の魔力は本当に抗いがたい。

少し考えて、考えることを止めた。

ポフンと音を立てて、後ろに倒れ込む。
どうせユーノも起きてくれないし、こうなったら、なのはが帰ってくるまで眠ってしまおう。
そう決めて、重くなった瞼を閉じようとして、ふと思った。

「……枕になるものないかなぁ」

クッションでもいいのだが、取りに出るのが面倒だ。
ふと、横に寝ているユーノを見て、ピンと思いついた。

無防備に投げ出された腕。
そろそろと近寄って、その腕に頭を乗せる。

「うん、良い感じ」

そんなことをされても全く起きようとしないユーノにクスクス笑う。
このまま、なのはが帰ってきたらビックリするかもしれないけど、まぁ、いいや。

暖かいし、眠いし。
今度こそ考えることを放棄して、重たくなった瞼を閉じたフェイトだった。

それからしばらく経って。

「う〜、さむっ。外雪降ってるんだもんなぁ。おまたせ〜、ユーノ君、フェイトちゃ……」

部屋に戻ってきたなのはが目撃したのは。
ユーノの腕を枕にして眠っているフェイトと、それに気付いたのか、気が付いていないのか、出掛けた時と全く変わらず寝っぱなしのユーノ。

「あー、フェイトちゃん、ずるいんだー」

ある意味、微笑ましいのだけれど。
その光景にクスクス笑いながら、コートをハンガーに掛け、なのはもコタツへと入り込む。

「ねー、ふたりともー、風邪引いちゃうよー?」

無理に起こすことはしないけれど。
あまり待たせてはいけない、と、出来るだけ早く買い物を済ませて帰ってきたのに。
これはないんじゃないかなぁ、となのはは嘆息する。

帰ってきたら、遅いよ、と苦笑しながら二人が迎えてくれると思っていた。
何となくプゥと頬を膨らませてみた。もちろん二人とも寝ているから反応は返ってこないのだけれど。

「……フェイトちゃん、気持ちよさそうだな」

幸せそうに眠っているフェイトを見ていると、何となくユーノを占領された気がしてならない。

「こうなったら、私も寝る!」

その結論はどうなんだろうと、自分でも思うが仲間はずれは何となく嫌だった。
起こさないように空いているユーノの片腕を引っ張る。
ユーノが起きたら、身動き取れなくてビックリするのが目に見えていたけれど。

「まぁ、いいよね?」

ポフンと音を立てて、ユーノの腕に頭を置いて横になり、えへへ、となのはは笑う。
コタツとユーノとフェイト。それぞれの温もりを感じながらなのははそっと目を閉じた。

「なのはー、ユーノ君たちもー、ご飯出来たわよー」

それから、更に少し経って。
食事の支度を終え、パタパタと足音を立てながら、部屋にやって来た桃子が目にしたものは。

大の字に寝ているユーノと彼の両の腕を枕に眠る娘、そしてその親友の姿だった。

「……コタツムリ、三匹発見、と」

クスクス笑いながら、桃子はこの光景を残しておこう、とデジカメを探しに部屋を後にするのだった。






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