「翡翠と虹と桜の嫉妬?」
 
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その日、高町ヴィヴィオはご機嫌だった。
学校のテストで満点を取れたから。給食のおかずが彼女が好きだったものだから。
色々理由はある。

が、一番の理由は別にあった。
いつも顔を合わせている大好きな人が、いつもの場所へ戻ってきているはずだから。
そう思って、無限書庫へとやってきた。

無重力の中、周りの司書たちに挨拶を交わしながら、目的の人を捜していく。
程なく、いや、すぐに目的の人は見つかった。
検索魔法が起動し、様々な本が彼の周りを舞っている。
学会の関係で二週間ほど、無限書庫を空けていた為、溜まっていた仕事を急ピッチで片付けているのだろう。

気付かれないように、そっと後ろから近付いて行くと、勢いを付けてヴィヴィオはその背に飛び付いた。

「ユーノくん!」
「わっ!?」

いきなり背中飛び付かれ、首に回ってきた両腕に検索へ集中していたユーノが素っ頓狂な声を上げる。
途端に検索魔法がストップし、規則正しく舞っていた本が力を失い、無重力の中に浮遊し出した。

「び、びっくりしたぁ!?」
「あはははは! ユーノくん、すっごいお顔ー」

目を白黒させているユーノをヴィヴィオが朗らかに笑う。
ふぅ、と一息吐き、危ないじゃないか、と背中に抱き付いたままのヴィヴィオに顔を向け、ジッと睨むユーノだったが、その笑顔に毒気を抜かれてしまっていた。

「もー、いきなりどうしたのさ、ヴィヴィオ? 何か嬉しいことでもあったの?」
「テストで満点取りました!」
「へぇ、頑張ったじゃない」
「えへへー、だから、自分にごほうび。ユーノくん分、二週間分ほじゅー」

何それ、とユーノが苦笑するのにもお構いなく、ヴィヴィオはギュッと抱き付いたまま、離れようとしない。
慕ってくれるのは嬉しいんだけど。たかだか二週間顔を見なかっただけで、これはどうだろう。
そんな事を思いつつも、頑張ったご褒美なら、まぁ、いいか。とヴィヴィオの好きにさせたまま、検索魔法の再起動に掛かる。

起動し終わろうかというところで、端末の通信音が響いた。
誰だと思って見てみれば。今、後ろで抱き付いている子の母親。
ヴィヴィオの事なら、後でこちらに顔を出した際に話せばいいことだ。はて何事か、とユーノは首を傾げながら、せっかく起動し終えた魔法を再び停止させ通信を開く。

「あー、ママだ〜」
「なのは、どうかしたの?」
「うん、今日帰ってくるって聞いてたから。そっちに居るかな――って。ヴィヴィオ、何してるの?」
「ユーノくん分補充なんだってさ」

何をするでもなく、ただユーノの背に抱き付いてニコニコしている娘の姿になのはは思わず溜め息を吐いた。
仕事の邪魔したら駄目じゃないか、と。
なついているユーノが側にいるのだから、気持ちは分からなくもないけど、とユーノの説明を受けなのはの顔から苦笑が漏れる。

「で、通信でなんて何か急ぎの用事? 急な資料でも出て来た?」

だけど、何でだろう。不意にヴィヴィオに何かズルイと思う気持ちが湧いた気がした。

「なのは?」
「ふぇ?」

一瞬、うわの空になっていたのだろうか。ユーノの言葉にハッと我に返って、プルプルと首を振る。
なのはの行動を妙に感じたのか、ユーノは首を傾げた。

「……あ、ああ。ごめん! えっとね、急ぎって訳じゃないんだけど、どこにいるか確認したかったの。今、フェイトちゃんも帰ってきてるから」
「フェイトママ、帰ってきてるの?」

なのはの様子に気が付いた様子もなく。
ようやく、ユーノから離れると、今度は二人の真ん中に割り込むようにヴィヴィオは端末の通信画面を覗き込んだ。
ある種、微笑ましい娘の行動に苦笑しながら、なのはが言葉を続ける。

「うん。ユーノ君が帰ってきてるなら、久しぶりに4人でご飯でもどうかな、って思って」
「ああ、そういうことか。うーん……」

さて、どうしようかとユーノが考えかけて、ふと何か視線を感じたので、目線を下げてみれば。
しっかり、ヴィヴィオの期待の眼差しがこちらを睨んでいた。

「……そうだね、お邪魔で無ければ、ご一緒させてもらっていい?」

断れば、可愛い聖王陛下のご機嫌急下降は間違いなく。ヴィヴィオの表情に苦笑しながら、ユーノは一つ頷いた。
ユーノの返答にヴィヴィオの表情がパッと喜色に染まる。えへへー、と今度は前から抱き付いてくるヴィヴィオを受け止めてやった。
娘の行動があまりにも予想通りなのか、通信越しになのはのクスクスという笑い声が聞こえた。

「フェイトちゃん、こっちに向かってるから。合流したら後でそっちに行くね」
「分かった。来るまでに仕事に区切り付けておくよ」
「ヴィヴィオ、ユーノ君の邪魔しちゃ駄目だよ?」
「はーい」

そう言って、なのはからの通信が切れる。

「さ、そうと決まったら、さっさと片付けちゃうかな」

なのはたちが来るまで、どのくらいあるか分からないが、ある程度は終わらしてしまおう。
そう考えて、抱き付いているヴィヴィオを引っぺがすとウンと背伸びをして、2度、止まってしまった検索魔法を今度こそ、再起動する。

「あ、わたしも手伝う!」
「はは、期待してるよ。未来のエース」

翡翠色と虹色の魔法陣が重なり、再び本が今度はワルツを舞うように動き出すのだった。

◆◇◆

通信が切れたところで、直前のヴィヴィオの行動を思い出し、なのはは再び吹き出す。
信頼しているユーノになついてくれているのは自分としても嬉しい事。
だけど、ちょっと複雑。何故だか、そんな気がした。

そんなことを考えていたら、後ろで扉が開く音が聞こえた。
その音に振り返ってみてみれば。入ってきたのは長らくの親友。

「なのは、お待たせ……って、どうかしたの?」
「ふぇ? どうかって何が?」
「だって。なのは、何か複雑な顔してるよ?」
「ああ……えっとね」

顔に出てたのかのだろうか。頬に手を当てた後、先ほどのやりとりをフェイトに話す。
話を聞いてみれば。
途中からフェイトは呆れ半分、だが、なのはの反応が面白いのか、声が出そうな苦笑を押し隠すのに必死になっていた。

なのはが不意にヴィヴィオの行動に感じたその感情。
それは間違いなく。そう、娘への『嫉妬』。
子供らしい奔放さ故に甘えられるというのは確かに考えてみれば、羨ましいことだ。

だけど。それが嫉妬だとなのはは気が付いていない。
やれやれ、どれだけ鈍いのやら。そう思うとフェイトは溜め息も吐きたくなる気持ちに駆られるのだったが、それも堪えてそっと微笑んだ。

「フェイトちゃん、聞いてるー?」
「聞いてる、聞いてるよ」

耳を傾けていれば。通信での出来事に限らず、無自覚なまま次々出てくる娘への可愛い嫉妬。
ついには堪えきれずクスクス笑い出すフェイトに、なのははちゃんと聞いてもらえていないと感じたのか膨れ出す。
まだまだ、先は長そうななのはとユーノの関係。
さっさと一歩先に進んでくれとも思うけど、まだまだ、このままでも良いかなぁとも思ってしまう。

だって。

なのはとユーノとヴィヴィオ。三人の今を見ていられるのもまた、自分にとってみれば、大切に想える時間だったから。

そんな風に考えるフェイト・T・ハラオウンだった。





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