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「あ、ゆうしゃだー!」
「へっ?」
休日を利用して、なのはの家を訪れたユーノ。
家の奥からなのはに招かれて招かれて居間まで入ったところで、
ゲームをしていたヴィヴィオから開口一番にそう告げられた。
「……ヴィヴィオ、勇者って……何?」
何故、そんなことを言われるのか、皆目検討も付かないユーノ。
ニコニコ顔で笑っているヴィヴィオに説明を求める。
そんなユーノを見て笑いながら、なのははヴィヴィオの隣へと腰を降ろす。
「えへへ、これ!」
困惑するユーノにヴィヴィオはゲームのパッケージを差し出し、画面を指差した。
確かミッドチルダで人気のRPGゲームだったはずだ、と思い出した。
司書も何人かやっていると話していたのを聞いたことがある。
なのはが買ってやったのだろうか。
そんなことを思いながら、ヴィヴィオの指指す先、画面を見てみて、ユーノの目は点になった。
何しろ、主人公の名前が『ユーノ』と命名されていたのだから。
「……これ、ヴィヴィオが名前付けたの?」
「ううん、なのはママ」
子供のやることだ、と苦笑しながら、ヴィヴィオに聞いてみたらもっととんでもない答えが返ってきた。
「……なのは?」
命名主に顔を向けてみれば、娘と同じようにニコニコ笑っていた。
「あはは、ゴメンゴメン。何となくだけど、この主人公さん、ユーノ君に似てるなって、思ったから」
「似てるかなぁ……」
言われ、パッケージに描かれたキャラクターに目を向ける。
確かに金髪で長髪な主人公だが、そんなに似ているだろうか。
そもそも自分は勇者なんかじゃない。力も何もないのだから。
「そんなことないよ」
「……なのは?」
顔に出ていたのだろうか。
パッケージから顔を上げ、なのはに視線を戻してみれば、なのはが真剣な眼差しでこちらを見ていた。
「ユーノ君は勇者だよ」
「力もなにもないのに?」
「違うよ、ユーノ君。勇者って人は力があるからとか、強いからとか、そんなものじゃないと思う。
勇者は何時だって、皆に勇気を与えてくれる人。自らも勇気を持って、困難に立ち向かう人。
そんな人が勇者なんだと思うんだ」
「なら、ますます違……」
「違わないよ。ユーノ君は確かに前に出る人じゃない。だけど、勇気が無いなんて、それこそ絶対にないよ」
自分には勇気なんて、無い。そう、否定しようとして、凛とした声で止められた。
何でもお見通しなんだな。と苦笑する。
「ユーノ君は何時だって、私に勇気を与えてくれた。ううん、私だけじゃない。みんなもそう。
ユーノ君が後ろで支えてくれてる。大丈夫だって言ってくれる。
だから、みんな、いつだって頑張れるんだよ。だから、ユーノ君は勇者なんだよ」
「なのは……」
「うん」
ただ、微笑んで自分は勇者だと言ってくれるなのは。
そんな顔を見て、ユーノも一つ頷いて微笑みを返した。
ヴィヴィオはゲームに夢中になっているのか、二人の話は全く聞いていない。
段々と照れくさくなってきて、ユーノはなのはから視線を反らして、画面へと目を向けた。
そして画面を見て、ユーノは思わず吹き出し、大声で笑い始めたのだった。
何しろ。
ヒロインの名前にしっかりと『なのは』と、命名してあったのだから。
その後、なのはが真っ赤になって、あれこれ弁解しようとしたのは言うまでもない。
了
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